この講で学習すること
・その他有価証券の期末評価は時価か簿価か?
・全部純資産直入法とは
・部分純資産直入法とは

その他有価証券は、売買目的でも満期保有目的でも支配目的(子会社・関連会社)でもない目的で保有する有価証券でした。
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そんなその他有価証券ですが、期末処理もまた特有な仕方をします。
なので、日商簿記検定本試験でもよく出題されます。

その他有価証券の期末評価は?

有価証券の期末評価は、

時価があるもの(=市場価格があるもの)は時価に評価替えが原則
時価がないものは、(仕方ないので)簿価

というのが原則です。
その他有価証券は、株式もあれば債券もあるわけですが、市場価格があるものであれば、時価評価となります。
ただし、同じ時価評価でも、売買目的有価証券とは次の2つの違いがあります。

【その他有価証券の時価評価のポイント】
1.洗替法により、期首再振替をする(切放法はない!)
2.(原則として)評価差を、当期の損益としてP/Lに表現しない

同じ時価評価でも、その他有価証券は、売買目的有価証券と違い、売買を目的としていないので、決算日時点で「今日売ったとしたらいくらの儲け?あるいは損?」という意味合いが弱まります。
そこで、

1.決算日では時価評価するものの、次期に入ったら期首再振替で、もとの簿価にすぐ戻すわけです(洗替法)
2.売買目的で「今日売ったら?」の意味合いが弱いので、評価差額を当期の営業成績である損益計算書に表現しません。

でも、時価評価で簿価と時価に差額が生じていれば、資産である借方の「その他有価証券」勘定を増減させる仕訳を切ります。
では、貸方はどうすればいいのでしょうか?
費用や損益を使わずに、かといって負債が増減するわけでもありません。

純資産です。

P/Lを介さず、純資産れてしまうのです。
そこで、その他有価証券の評価差額の処理方法を

「全部純資産直入法」
「部分純資産直入法」

というのです。

全部純資産直入法とは

【設例】
決算日において、その他有価証券の内訳は次のとおりであった。
・A社株式
帳簿価額:100,000/時価:120,000
・B社株式
帳簿価額:50,000/時価:40,000
(単位:いずれも円)

その他有価証券は時価評価ですから、A社株式・B社株式をそれぞれ、簿価から時価に置き換える仕訳をします。
A社株式
(借)その他有価証券 20,000
/(貸)??????? 20,000
B社株式
(借)??????? 10,000
/(貸)その他有価証券 10,000
これがもし、売買目的有価証券であれば、?のところは、「~評価損」「~評価益」あるいは「~評価損益」といった勘定を使うのですが、先述のとおり、その他有価証券の場合、評価差額は損益としないので、これらの勘定は用いません。
ではどうするのか?

「その他有価証券評価差額金

という名前の勘定で、損でも益でもない、評価差額金という表現をとります。
この「その他有価証券評価差額金」勘定は、もちろん、純資産の部に含まれます。
さて、本設例について、全部純資産直入法(2級の出題範囲)の場合、複数あるその他有価証券の簿価と時価を全部ひっくるめて合計して、
簿価合計=100,000+50,000=150,000
時価合計=120,000+40,000=160,000
なので、

【仕訳】
(借)その他有価証券 10,000
/(貸)その他有価証券評価差額金 10,000

と仕訳します。
もちろん、その他有価証券評価差額金はP/Lには表現せず、B/S(純資産の部)に表現します。
その他有価証券評価差額金勘定が貸方残(時価評価により簿価がプラス)となれば、純資産を増やすことになり、
逆に、その他有価証券評価差額金勘定が借方残(時価評価によりマイナス)となれば、純資産を減らすことになります。

また、本設問では問われていませんが、次の会計期間に入ったら、期首にやることがあります。
洗替法なので、期首再振替が必要ですね。

【仕訳】
(借)その他有価証券評価差額金 10,000
/(貸)その他有価証券 10,000

それでは、もう一つの「部分純資産直入法」ではどうするのでしょうか?
これは、日商簿記検定2級の出題範囲には含まれていないのですが、参考のため次の講でご紹介します。

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その他有価証券の時価評価(全部純資産直入法)のまとめ
・その他有価証券は、期末決算では、時価評価とする
・ただし、切放法ではなく洗替法による
・評価差額は、費用・収益ではなく純資産として「その他有価証券評価差額金」勘定を使う
・全部純資産直入法とは、複数あるその他有価証券について、簿価合計と時価合計から算出した差額合計について「その他有価証券評価差額金勘定」で処理する